短編「日記」

その日も普通ではなかった。

傍から見れば日常と何ら変わらなく映るだろう。

しかし、視点を彼女のものにすればそれは簡単に違和感になる。

彼女は几帳面だ。親の教育はおそらく関係なく、そういった手が入る前の根元からなのだろう。

そんな中での違和感とは。

 

帰宅した彼女はスマホを起動する。開くアプリは「写真」。

今朝撮ったものと見比べる。写真の中のカーテンは閉じられている。そしてスマホの先にあるカーテンは2センチほど開いている。

もう違和感では片付けられない。

彼女は慎重に振り向いた。そこに視線は無い。

彼女は何かを探すように部屋を見て回った。その他の違和感や隠しカメラの可能性を疑ったからだ。

 

1時間ほどの捜索の後、それらしいものは何も見つからなかった。

クローゼット、押し入れ、浴槽、人が入れる可能性のあるものも同時に見て回った。しかしそこには自分の生活の匂いしか残されていない。

 

彼女は押し入れに入り屋根裏を見る。

ネズミの一匹すら見つけられず戻る。

 

彼女はカバンから周波数計測器を取り出した。俗に言う盗聴器発券機だ。

出来ればこれは使いたくなかった。これを使って見つかってしまったらと思うと…恐怖と面倒くささが同時に迫ってくる。

しかしそんな事は言ってられない。

発券機の電源を入れ、説明書通りにボタンを押す。

低い機械音が部屋に響く。説明書によれば異変があると高い音が出るとの事だ。

念入りにそれをかざす。コンセント、タコ足用のコンセント、PC内、備え付けられていたエアコン…

 

そして結局それらに以上は無かった。

ここまでしてようやく彼女に悪寒が走る。

己では解決できない、なにか大きな力が働いているとしか思えない。

しかし彼女は考えるのが苦手だった。夜ご飯を食べ、風呂に入り、出た頃には正直どうでもよくなっていた。

違和感は今後も続くだろうという漠然とした不安。しかしそれすらもめんどくさいと思う本心。そしてなにか事が起きてからでも大丈夫だろうという油断があった。

 

そうして彼女は眠りにつき、朝になった。

出勤までの貴重な時間。彼女は寝坊した事さえないが、ギリギリまで寝ていたいという気持ちはあるので朝はバタつく。

 

そんな中でも戸締りや軽い掃除は忘れない。

そして彼女は全ての準備を終えてカーテンを閉めた。これは学生の頃からの習慣であり、それは今も続いている。彼女の几帳面さを表すエピソードとなっている。

 

そして彼女は常に変わらない間合いでカーテンから離れ、玄関に向かった。

その時に学生の頃からふとましくなった体がカーテンに引っかかったのは、些細なことだろう。